コラム

国立大学法人におけるDX推進について

当社では、国立大学法人向けに予算編成・執行管理のソリューションを提供していますが、DXについても仮想デスクトップの導入による業務システムのクラウド移行を中心にご支援させていただいています。当社では単にデジタル技術を使うデジタイゼーションにとどまることなく、さらに一歩踏み込んだDXを国立大学法人向けに展開しています。当コラムでは、国立大学法人がどのようにDXに取り組むべきかについて、最近の事例を交えながら解説させていただきます。

大学がDXを推し進める要因

大学(教育界)におけるDX推進の要因については、産業界におけるDX推進の要因とは外見は異なりますが、本質は同様であると考えられます。一般によく言われる産業界のDX要因としては、経産省のDXレポート(2025年の崖)や、海外のディスラプターとの比較が挙げられます。また昨今のコロナ禍の影響により、旅行業や航空会社などのようにビジネスモデルの変革を余儀なくされている業種もでてきています。さらに従業員については、勤務形態がリモートワーク前提になったことにより、ニューノーマル時代の働き方の対応や、デジタル技術に精通したDX人材の不足に直面しています。

一方、大学(教育界)のDX要因としては、文科省のデジタル化推進プラン、いわゆるPlus-DXや、海外の有力大学との比較が挙げられます。また産業界と同様に昨今のコロナ禍の影響により、大学の経営モデル自体が変革を余儀なくされています。さらに学生については、授業形態がオンライン授業前提になったことにより、ニューノーマル時代の学び方への対応や、教職員については、そもそもデジタル技術に精通したDX人材が不足しているといった問題に直面しています。

国立大学における現状の課題

長らく国立大学は法人化の目的である「競争的環境の中で、活力に富み、個性豊かな魅力ある国立大学」を目指してきましたが、国による管理の仕組みや大学の経営裁量が限られていることにより、現在においても実現されているとは言い難い状況です。

現状の国と国立大学の関係については、国が各国立大学の経営全般に渡る中期目標を定め、各大学が立てた中期計画を国が認可し、評価をしています。そのため大学は目標管理型の枠組みの中で文科省の認可を受け、運営費交付金を受給することとなります。つまり国が定めた中期目標から中期計画が立てられ、大学は国の管理下におかれるのです。このような現状は、自ら多様な目的を持って自律的に発展していく国立大学法人にとっては、もはや馴染まない制度といえます。(引用元:国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて~社会変革を駆動する真の経営体へ~最終とりまとめ より)

国立大学における将来の方向性

国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議※ によると、令和4年度から始まる第4期中期目標期間を、国立大学法人の機能を拡張し真の経営体へと転換を図る移行期間と位置付け、必要な環境整備を段階的に行っていくようにと進言しています。

※国立大学と国の自律的契約関係を再定義し、国立大学法人の自律的経営に向けて関連法令の改正や新規創設を含めて検討を行う会議体

そこでは将来の国立大学と国の関係について、以下のように定義しています。

国は国立大学法人の多様性に十分配慮して、大学政策上必要な方針のみを大枠として示すこととし、国立大学に負託する役割や機能の発揮ができる環境構築に責任を持つこととする。それを前提に、自律的契約関係のもと運営費交付金を支給する。

各国立大学は、国のパートナーとして国から負託された業務を確実に遂行し、自らの裁量で機能を拡張することとする。またそれに伴い、活動成果の可視化や、徹底した情報公開による透明性の確保を行うものとする。

このことは、国立大学といえども国との関係性が変わることにより、自らの経営モデルの構築が急務であることを意味するのではないでしょうか。

国立大学におけるDXとは

デジタル技術を活用して大学経営モデルの変革を行うためには、自校の強みを生かした経営モデルを実現し、全てのステークホルダーを対象とした包括的な 「DX基盤」 を構築する必要があります。

ステークホルダーを対象としたDX基盤として、教員にとっては、教育DX・研究DXを、職員にとっては、事務DXを、学生にとっては、学習DXを構築します。また、自校の経営モデルを実現するDX基盤として、総合デジタルサービスメニューや、クラウドによるプラットフォーム構築、現場に役立つデータの一元的収集機能などを構築します。また教育や研究だけではなく,それらを支援する補助業務も含めた高度化と効率化には,教職員・学生・研究者および大学の執行部等のステークホルダーからの要求に応じた情報環境の整備が不可欠となります。

最近の大学でのDXの取り組み例を見てみると、このような経営基盤の強化に向けた取り組みが広がり始めています。業務効率化や職員のテレワークなどにも対応することにより、企業で先行するDXの取り組みを大学でも実施しています。

大学DXに関する具体例としては、以下のものが挙げられます。

紙媒体の電子化による業務の効率化
• 事務処理速度の改善を目標に、稟議書や申請書の電子化と事務の効率化に取り組む
• 文書の電子化で稟議書などの承認過程が簡素化する
• 総務や人事、財務部門などでも書類の電子化を進める
• 単位認定手続きなど、学生生活全般に関する事務の電子化を進める

テレワーク対応
• 電子申請・承認・決裁・保管の推進で、職員の大多数は在宅勤務が可能となる
• 個人用PCの配布とオンライン会議システムの導入により、在宅でも稟議や決裁が容易に行えるようになる

学生支援
• 大学のホームページで学生からの質問に自動応答するチャットボットを導入する
• 卒業生情報を検索できるようにして、就職活動時の支援に役立てる

大学はこれらが単なるデジタイゼーションにとどまらず、自らの経営モデルの構築につながるように取り組まなければなりません。

これからの大学におけるDX取り組みの傾向と対策

現状多くの大学では、まだDX基盤の構築まではいかずに、文書の電子化によるペーパーレスやオンライン会議システムの導入、申請決裁システムの自動化など、大学事務の効率化といった局所的な対応にとどまっているのではないでしょうか?

また大学では小中高校とは異なり、コロナ禍によりオンライン授業が定着しましたが、今後も市場の競争原理により、更なる顧客体験(学生体験)の価値向上が求められています。それを支える大学教職員においても、デジタル技術に精通したDX人材となるべく自らの意識を変えていく必要がでてくるでしょう。

少子化により定員割れが生じる大学も少なくないなかで国立大学といえども、経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。それだけに、大学でのDXの推進は急務であり、経営モデルの変革につながるような、デジタル技術の活用に躊躇している時間はありません。