コラム

ERP導入 成功のポイント(第1回)
クラウドERP導入の成功の鍵
- これまでの反省を踏まえた、
プロジェクトアプローチ(前編) –

ERP市場の動向

ERP市場の動向として、今後ERPの導入を検討されるユーザーは増加傾向にあると考えます。特にクラウド利用が可能なERPのニーズが高まるものと思われます。従来のスクラッチ開発や国産パッケージのユーザーについても、継続利用を取りやめて新たにERPの導入を検討されています。そのため各ベンダーではユーザーの定期フォローの中で、既存システムの不満などをヒアリングし、ユーザーごとの状況に応じてERPの提案を行っています。

当社インサイドセールスによるERPアンケートの結果においても、次期基幹システムはERPの導入を検討しているユーザーが増加傾向となっています。特にクラウド利用が可能なERPであるSaaS型ERPに関心が集まっています。(図1)

日本のITを取り巻く環境

経済産業省の「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」によると、日本企業がこのまま戦略的IT投資を行わないでいると、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があると指摘されています。

これは「2025年の崖」と呼ばれ、既存システムのブラックボックス状態を解消してデータ活用を行わないとDX化が実現できず、その結果、市場の変化に対応したビジネスモデルに変更できずにデジタル競争の敗者になるとされています。

またシステム維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上にいわゆる「技術的負債※」が隠れるようになり、保守運用の担い手不足に伴い、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブル、データ滅失等のリスクが高まるとも言われています。

※技術的負債とは、短期的な観点でシステム開発し続けた結果として、長期的に保守費や運用費が高騰している状態となっていることを指します。本来不必要だった保守運用費を支払い続けることを、一種の負債ととらえています。(経産省「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討」より引用)

これまでのERP:あるべき姿から生じた技術的負債

こうした技術的負債は、長期に渡る仕様変更によりシステムが複雑化し、その複雑化した仕様を理解した保守担当者が異動により後任に十分な引継ぎがなされずに、システムの中身がブラックボックス化したことが原因となって発生しています。この技術的負債が、保守運用コストを増大させ、DXに必要なシステム対応を拒む要因となっています。

特に、現行業務の保証を前提とした考え方でERPを導入してしまったことにより、ユーザーからの特殊要件をシステムで満たすために過度なアドオンを行った結果、業務の標準化を行ってきませんでした。

これまでのERPプロジェクトでも標準化に向けて努力をしてきた企業もありましたが、標準化を成し遂げた企業は少ないようです。その理由は、アドオン開発を巡ってシステム部門と業務部門との間に、一種のジレンマが発生するからです。そのジレンマとは、システムに業務を合わせてもらいたいシステム部門と、業務にシステムを合わせてもらいたい業務部門との駆け引きにありますが、どちらを満たしてもそれ相応の負担が各部門に生じてしまうからです。

目まぐるしく変わる経営環境の変化にシステムが柔軟に対応するには、この技術的負債を軽減し、業務の標準化を実現しなければなりません。

ERP導入の成功のためには、標準化のコツがあります。すべての業務を標準化するのではなく、自社の強みとなる部分や業界独自の商習慣は個別対応が必要となります。標準化を行うのは、他社と差別化する必要のない業務を対象とします。他社と差別化する必要のない業務は、属人性を排し徹底的に標準化を図り、生産性を向上させる必要があります。また、プロジェクトの進め方にもコツがあります。

後編では、標準化を推進し、DXを成功に導くためのERP導入プロジェクトの成功のコツについて、お伝えしたいと思います。

後編へ続く