コラム

プロジェクトの成功はベンダー選びにあり
(前編)

もし、皆さんがユーザー企業の情報システム担当者であるとしたら、基幹システムを導入する際には、RFP(提案依頼書)を発行し、各ベンダーから個別に提案を受けようとするでしょう。どのベンダーに決めるかについては、各ベンダーから受領した提案書やプレゼンの良し悪しを比較して判断しようとしますが、なかなか決められずに悩まれるのではないでしょうか?

今回のコラムでは、発注者であるユーザー企業と受注者であるベンダーの両方に在籍した経験のある筆者が、発注者であるユーザー企業にとって役立つベンダー選びのポイントについて、前編と後編に分けて解説させていただきます。なお、RFPとはそもそも何か?については、このコラムをお読みになる前に、筆者コラム「RFPの作成には、ちょっとしたコツがある?」をご一読いただくことをお勧めします。

ベンダーの種類とベンダーの絞り方

ベンダーといえば大きく分けて、システム導入をメインビジネスとする「導入ベンダー」と、ソフトウェアの開発・販売をメインビジネスとする「製品ベンダー」の2種類のベンダーが存在します。導入ベンダーとしては、システムインテグレーターを筆頭に、コンサルティング会社、ハードウェアメーカーなどがあります。また、製品ベンダーとしては、SAPやOracle、Microsoftなどのソフトウェアベンダーがあります。製品ベンダーは、ソフトウェアの開発・販売だけでなく、自社製品の導入を支援するコンサルティング部門を抱えていますが、基本的には自社のパートナー企業として登録されている導入ベンダーに導入作業を任せているのが一般的です。

ユーザー企業が自社の基幹システムの導入を外部に任せる場合には、基本的には先に述べた導入ベンダーに導入作業を依頼することとなります。パッケージソフトやクラウドサービスを導入する際は、製品ベンダーに依頼することもできますが、要員単価が高額であったり、リソースが十分にアサインできなかったりするので、通常は依頼先としては難しいのではないかと思います。また、製品ベンダー自身が導入についてはパートナービジネスを推進していることもあり、製品ベンダー単独ではプロジェクトを引き受けずに、導入ベンダーと連携して導入作業を実施することとなります。

ユーザー企業がベンダーを選定する際には、次の5段階でベンダーの絞り込みを行います。

① 事前調査:20社前後
② RFI:10社前後
③ RFP:3~5社
④ RFQ:2社(必要に応じて実施)
⑤ 契約:1社

まず①事前調査では、20社前後に対してネットによる調査、セミナー参加、同業他社に聞く、知り合いのコンサルタントに聞くなどして、間接的に情報収集を行います。次に、②RFIを10社前後に発行します。RFIとは情報提供依頼書(Request for Information)の略称であり、その主な目的はRFP(提案依頼書)の発行先を決めるためのものであります。RFIの発行先は、ベンダーからの営業アプローチに耐えられる数にしておくのがよいでしょう。このようにベンダーの選定はRFPを作成する以前に、すでに始めておくのがいいでしょう。

RFIにて目星をつけた3~5社のベンダー対して、③RFPを発行しましょう。RFPに記載する要求事項は、見積もりがブレない程度の粒度の記述にとどめておきます。あまり細かく記述してもベンダーからの提案の幅を狭めてしまいます。詳しくは、筆者コラム「RFPの作成には、ちょっとしたコツがある?」をご一読ください。

提案書をベンダーから受領して提案内容について評価した後に、どのベンダーの提案内容も遜色がなく決めきれない場合は、発注者としては見積価格を下げる交渉をしたくなります。この場合は、④RFQ(Request for Quotation見積依頼)を発行しましょう。発行先は提案内容に差がない2社に絞り込み、この2社から見積だけを再提案してもらうことにします。

ベンダーの選定はRFPを作成する前に、既に始まっています。RFPの発行先の候補となるベンダーに対して事前に提案するつもりがあるかないか、どの程度本気で提案してくれるのか、ベンダーの営業担当者に確認しておきましょう。また、評価項目をあらかじめRFPに明示しておくと、各ベンダーから提出された提案書を横並びで比較しやすくなるため、その後の提案書の評価が楽になります。

RFPの発行から提案期限までの期間については、3週間くらいが適当です。2週間ではベンダーが十分な準備ができないおそれがあり、1カ月以上だと、ベンダーが自社の経営層にタッチしてきたりして不要なアプローチをしてくる可能性があるので注意が必要です。

ベンダーの評価項目

ベンダーに対する評価項目はあらかじめ、RFPの作成時点で決めておきましょう。一般的な評価項目は次の6項目です。

① 要求事項への対応度(要求事項に対する実現性の評価、課題に対する解決策の評価)
② プロジェクトの進め方、スケジュール、体制
③ プレゼン時の対応(PM、メンバーのスキルと経験)
④ 見積価格
⑤ ベンダーとしての実績と信頼性
⑥ 評価者の直感(言語化されない評価を拾い出すのに有効)

※①~⑥に持ち点を与え、かつ重みづけを行います。
持ち点は、〇△×でシンプルにしましょう。例えば10段階で1~10点とした場合、6点と7点の差は何か説明できません。よって、シンプルに〇△×の3段階にして、〇を5点、△を1点、×を0点にするなど差が開きやすいように点をつけるのがポイントです。

重みづけに関しては、何を評価の優先順位にするかで決まります。重要な評価項目には点数に乗数(重みづけ)をつけましょう。例えば見積価格の評価は2倍にし、プレゼン時の対応を3倍にするなどです。何を評価のメインとするのかは、個々のプロジェクトの事情によるため、評価メンバーで十分に話し合ってください。但し、評価項目と重みづけについては、提案書を受領する前にしておかないと、あとで特定のベンダーに肩入れをするなどの恣意的な意思入れが起こってしまうので注意が必要です。

RFP発行後、提案書が提出されるまでの期間にベンダーによってなされた質問にも評価のポイントがあります。しっかりRFPを読み込んでいれば、かならず質問が出てくるものです。質問内容によって、そのベンダーの力量やレベルが確認できるので、ぜひ確認しましょう。

提案書の提出が遅れるベンダーは、どんな理由があってもダメです。即アウトにすべきでしょう。そういったベンダーを選ぶと、必ずプロジェクトが遅延します。また提案書に誤字脱字があったり、ページが振られていないのも当然アウトです。その他の提案書の確認事項としては、不要な製品の売り込みがないか、他の案件で使用した形跡のあるコピペ文章やテンプレートの使いまわしがないか、ページごとにフォントがバラバラでないか、無駄に枚数がかさばっていたり、突然色使いの派手なページがないか、などもあります。

提案の骨子やサマリーがない提案書もダメな提案書の典型です。こんな提案書を提出してくるベンダーは、すぐにでも選定プロセスから外してもよいでしょう。なぜなら、ベンダー内部で十分な議論や検討がなされていないからです。議論や検討がなされていれば、提案の骨子やサマリーは必ず記載されます。提案の骨子やサマリーがない提案書は大抵、製品の説明ばかりのページで提案書の枚数を稼いでいて、ほとんど読む価値がないのが特徴です。

以上、前編ではベンダーの絞り方と一般的な評価項目について解説させていただきました。続く後編では、筆者独自の視点による、ベンダーの評価ポイントについて解説させていただきます。