コラム

プロジェクトの成功はベンダー選びにあり
(後編)

前編では主に、ベンダーの絞り方と一般的な評価項目について解説させていただきました。続く後編では、筆者独自の視点による、ベンダーの評価ポイントについて解説させていただきます。

ベンダーを評価する際のポイント

ベンダーを評価するにあたっては、単純に見積価格で決める、導入事例、導入実績で決める、トップの判断、親会社の意向で決めるなど、いろいろあると思いますが、導入プロジェクトが成功するかどうかは結局、ヒト次第なので、ベンダーの要員スキル、経験、体制などで決めるのが良いのではないでしょうか?前編で指摘させていただいた、ベンダーの6つの評価項目で言えば、③プレゼン時の対応(PM、メンバーのスキルと経験)の評価が重要だと筆者は考えます。

提案書の内容をしっかり説明してもらい、発注者の疑問点を払しょくするのが主な目的となるベンダーによるプレゼンは、実際にプロジェクトに参加する予定のPM(プロジェクト・マネージャー)と、その部下となるメンバーで実施してもらいましょう。大事な基幹システムの導入に関する提案なのですから、ユーザーとしては、なぜその機能が必要なのか?実装の実現性はあるのか?などベンダーのエンジニアと直接会話して確認すべきです。

また、プレゼンにおける説明や質問に対する回答などのやりとりをよく見ておくことと、するどい質問をしてきた、またはユーザーが気づいていない指摘をしてきたベンダーには、評価の際に加点を行います。また、わざとRFPの内容に抜け漏れをつくっておいて、指摘のなかったベンダーには減点をするという方法もあります。

PMのスキルや経験を見極めるのも当然ですが、ベンダーの上司部下のコミュニケーションの取り方も重要な評価のポイントです。これは筆者が実際、ユーザー企業の情シスのマネージャーであったときに体験した実話ですが、ベンダー評価の際のヒントになるかと思いますので、ここで披露させていただきます。


あるベンダーA社は、提案書の評価が高く、本命候補でした。プレゼンの当日はプロジェクトに入る予定のPMとその部下の2名で来社しプレゼンの準備をしていましたが、プロジェクターが斜めに投影されるやいなや、PMが部下を激しく叱りつけていました。また資料の配布も部下が一人で一生懸命配っていましたが、PMは椅子にふんぞり返って座ったままで、何もしていませんでした。プレゼン中にユーザーからでた質問に対しても、部下はすぐ回答できずにPMの顔色をうかがいながらなんとか回答した内容に、PMが舌打ちをする始末でした。こちらが詳しい説明を催促しましたが、PMからのフォローは最後までありませんでした。プレゼン終了後、質問の回答に窮してしまった部下を参加者がまだいる目の前で、PMが激しく叱責していたのが印象的でした。

これに対して別のベンダーB社は、提案書の評価はありふれたもので今一つでした。プレゼンの当日はプロジェクトに参加する予定のメンバー全員が来社し、プレゼンの準備における資料の配布をPMと部下数名でお互いに適量を分担しあいながら、机の上にリズミカルに配布していました。プレゼン中も、PMと部下の連携が非常にスムーズで、雰囲気良く進行していました。PMは終始、部下であるメンバー達にフレンドリーに接していて、部下が質問の回答に困っている時もPMが適切にフォローをしていました。


さあ、あなたならどちらのベンダーと一緒に仕事をしたいでしょうか?その時の筆者は、プレゼンに参加した情報システム部のメンバーと業務部門のマネージャーに、どちらのベンダーとプロジェクトを進めたいか確認しました。結果は全員一致で、提案内容は今一つだったがメンバーの雰囲気の良かったベンダーB社を指名しました。実際にプロジェクトが始まった後も、様々な予期せぬトラブルが起こりましたが、コミュニケーションの取りやすさが幸いして、遅延なくプロジェクトを完了することができました。

ベンダーを選定する際の注意点

このように、ベンダー選定にあたっては、実際にプロジェクトに入る予定のPMとメンバーに参加してもらって、コミュニケーションに難がないか確認しましょう。但し、製品ベンダーからの提案は導入ベンダーからの提案と違って、営業支援専門のプリセールスがプレゼンを実施するので気を付ける必要があります。また大手コンサルティング会社からの提案も、提案と導入作業をマネージャーが分業しているので、気を付けましょう。よくある例として、提案のプレゼンにはプリセールス専門のエース級が登場しますが、実際の導入プロジェクトには参加しないものです。よって、プロジェクトに参加する予定のPMやプロジェクトメンバーにプレゼンしてもらうことが、失敗しないベンダー選びには必要です。

最後に発注者として、ベンダー選定で気を付けておきたいポイントについて、お伝えしておきます。

① ベンダーを業者扱いしない
大切な基幹システムを任せるベンダーを業者扱いしていては、まともなシステムは導入できません。そのような態度を発注者がとることにより、プライドをもって仕事をするベンダーは自ら遠ざかり、怒られることで仕事を取ってくることが正しいと信じて疑わないベンダーと付き合う羽目になってしまいます。そういったベンダーは、人月商売に長けていて、わざと怒られることで工数を稼ぎ、平気で追加要員を要求してきます。結果、コストはどんどん膨らんで予算オーバーとなってしまい、本番稼働も遅れることとなります。

② マルチベンダーはできるだけ避ける
よくある例として、会計領域はA社、ロジ領域はB社、インフラ領域はC社というように、領域ごとに異なるベンダーと契約するプロジェクトがあります。また、本社導入はA社、子会社導入はB社というように、導入先ごとに異なるベンダーと契約する場合もあります。それらに共通して言えることは、領域や導入先の狭間にある部分がどのベンダーからもサービスの対象として漏れてしまう恐れがあるということです。

また逆に、お行儀の悪いベンダーだと、自らの売上を増やすために他のベンダーの領域に進出しようとしてきます。例えば、ロジ領域に入っているベンダーが会計領域にも進出しようと、プロジェクト期間中であるにもかかわらず、あの手この手で顧客の上層部にかけあい、その結果としてプロジェクトが混乱してしまうケースがあります。

③ 当て馬はやめる
とりあえず参考までに見積をとっておきたいなどの理由で、発注する気もないのにベンダーに提案を依頼することはやめましょう。いわゆる当て馬案件は、発注者、ベンダー双方にとって時間とコストの無駄となります。ベンダーも経験があるので、当て馬案件であるかどうかは分かるものです。例えば、RFP開示から提案までに期間が短い(2週間以内)であるとか、RFPの内容が露骨に特定のパッケージやベンダーを意識したものとなっているだとか、補足資料で受領したExcelなどのファイルのプロパティに、競合となる特定のベンダーの社名やコンサルタントの氏名が登録されているだとかで、簡単に判明してしまいます。

さいごに

以上で、筆者の主観が多々入っているかもしれませんが、発注者であるユーザー企業にとって役立つベンダー選びのポイントについて、解説させていただきました。ベンダー選定にあたっては、経営層への説明が最後に必要となってきますが、何も対策を打っていないと、結局はコストの見積もりが全てとなってくるケースがほとんどです。そうならないためにも、決裁権限を持つ経営層に説明するときには、なぜそのベンダーに決定したのか理由を説明できるように、しっかり準備しておくことが必要です。経営層は提案書を読みませんし、プレゼンにもでてきません。中間報告もサマリーレベルでしか報告を受けていないため、経緯を全部知っているわけではありません。ですから準備を怠ると経営層は、最終的にコストがいくらになるか?しか興味を持ちえないことになってしまいます。そうなると、実現不可能な提案で、半額でやりますというベンダーを選んでしまう結果となってしまいます。