コラム

当社SAPコンサルタントに聞く!
DX時代に求められる
基幹システムの要件とは?(後編)

質問5
分析ツールであるSACと、それを支える開発基盤であるBTPについて理解できました。では次に、ERP本体の話をお伺いします。SAPから提供されているSAP S/4HANAは、これまでのSAP ERPと比べてどんな違いがあるのでしょうか?

回答5
S/4HANAが2015年にリリースされて既に、丸7年が経過しようとしていますが、まだ多くのお客様から同様のご質問をお受けいたします。その理由は、まだS/4HANAに移行されずに、以前の製品であるSAP ERP6.0を使い続けているお客様が、S/4HANAへの移行のタイミングを見定めているからだと思われます。しかし、そういったお客様にとってみれば、移行を待つことで被るデメリットがS/4HANAに移行して得られるメリットを上回ってしまうかもしれません。

S/4HANAに移行することで得られる一番のメリットは、HANAデータベースが標準装備となったことです。それまでのERP6.0では、ハードディスク上に保存されているデータにアクセスしていましたが、S/4HANAになってからは、サーバーのワーキングメモリー上で展開されるインメモリーデータにアクセスすることにより、読み込み速度の高速化が大幅に実現できました。例えば、部品点数の多い自動車製造業の場合、完成時に製造指図のバックフラッシュによる大量の構成部品の在庫移動処理や原価計算などを、瞬時に処理することが可能となります。

またS/4HANAの特徴として、オンプレミスとクラウドの2つの導入オプションを選択できるようになったことが挙げられます。クラウドについては、さらにプライベート型とパブリック型の2つの導入オプションが選択できます。プライベート型クラウドについては、主なプラットフォームとしてAWSやAzure、またGCP(Google Cloud Platform)が選択できます。

機能面の違いに関しては、SAP ERPではCRMやAPO(Advanced Planner and Optimizer)、GTS(Global Trade Services)などが別々のモジュールとして提供されていましたが、S/4HANAになってからは、これらの機能がコア機能として取り込まれています。ベストプラクティスのシナリオに沿ってコア機能に取り込まれているので、ユーザーはモジュールという概念を意識せずに利用できるようになりました。

またデータ構造にも違いがあります。S/4HANAの会計データはユニバーサル・ジャーナルと呼ばれるひとつのテーブルに集約されています。一般的なユーザーからみれば、すぐに違いが判らないかもしれませんが、このユニバーサル・ジャーナルによって、ERP6.0ではモジュールごとにバラバラだった会計データの粒度や更新タイミングが、S/4HANAで統合されることで、複数モジュールを跨る分析が容易になりました。

質問6
まだS/4HANAに移行せずに、以前の製品であるSAP ERP6.0を使い続けているユーザー企業がいらっしゃるというお話ですが、SAP ERPからS/4HANAへの移行方法でよく聞かれる、グリーン・フィールドとブラウン・フィールドの違いについて、ご説明下さい。

回答6
S/4HANAへ移行するには2つの方法があります。それは、Greenfield(新規導入)とBrownfield(システム・コンバージョン)です。Greenfieldは、S/4HANAを新規で構築し、現行のデータをマイグレーションする方法で、Brownfieldは、現行のカスタマイズやデータをそのまま移行する方法です。移行するお客様のIT環境、ビジネス環境などを考慮して、メリットのある方法を選択します。

※Greenfieldとは、未開発でまだ建物を建てたことのない雑草が生い茂った土地を指します。これに対してBrownfieldとは、かつて建物が建っていた土地で今は使われていない土色の地面がむき出しの土地を指します。SAP社では、S/4HANAへの移行をこれらの土地の状態になぞらえて、比喩的に表現しています。

ERP 6.0 からS/4HANAへの移行にあたって、Greenfieldで行くべきか?それともBrownfieldで行くべきか?の選択については、それぞれのメリットとデメリットについてよく検討したうえで決定します。

Greenfieldのメリットは、既存のシステム環境や既存のアドオンに左右されずに移行が可能なため、着手が容易であることが挙げられます。またDX対応など、現在のビジネス環境に合ったシステムをS/4HANAの最新の機能を利用して構築できることもメリットです。デメリットは、Brownfieldと比較すると導入コストが比較的高額となり、新たにアドオン開発が必要となる可能性もあります。また、カスタマイズやアドオンの影響により、過去データがそのまま移行できない可能性もあります。

一方、Brownfieldのメリットは、Greenfieldと比較すると導入コストが比較的低額であること、適切な移行ツールを使用することで手間がかからずに移行できることが挙げられます。デメリットは、移行をビッグバン方式で進めるため、ダウンタイムが長くなると業務に支障が生じる可能性があることです。

質問7
最後に、そもそもS/4HANAへの移行について、コスト面でハードルが高いと感じているSAP ERPユーザーも少なくないようです。もしS/4HANAへ移行しないとなると、2025年にはSAP ERPの保守切れを迎えてしまいますが、まだS/4HANAに移行したくないユーザー企業にとっては、どういった選択肢があるのでしょうか?

回答7
選択肢として考えられる対応方法としては、SAP ERPの保守延長となるEhPのアップグレードや、Oracle ERP Cloudなどの他ERPへの移行、またRimini Streetなどのサポート専業ベンダーへの保守切り替えが考えられます。

またこれらとは別に、SAP ERPを運用するインフラ基盤であるオンプレサーバー自体の保守切れ問題を抱えているユーザー企業もいらっしゃいます。こうしたSAP ERPユーザーのニーズをくみ取り、当社では、EhPのアップグレードとオンプレサーバーのクラウド移行の両方に対応したサービスを、ワンパッケージで提供しています。

SAP ERP6.0 の2025年保守切れ問題に対しては、EhP(Enhancement Package)6以上の適用により、2027年まで延長されます。また、EhP6以上の適用と同時に延長サポート契約を締結すると、2030年末まで延長されます。

EhPのアップグレードに関しては、事前の影響分析(アセスメント)作業が重要となります。このアセスメント作業を、もしツールを利用せずに人手で実行するとなると、多くの工数とコストがかかってしまいます。そこで当社ではSAPの移行専門ツールである Panayaを活用して48時間以内にアセスメントを完了するサービスを提供させていただいています。

PanayaとはSAP, Oracle, 及びSalesforceといったエンタープライズ・アプリケーションの移行に特化した専門ツールであり、グローバルで3,000社以上の顧客、5,000以上のプロジェクトの成功に貢献しています。また日本では2009年にビジネス開始以降、300社以上の顧客にて実績があると伺っています。

Panayaでは独自の影響分析エンジンにより、48時間以内に影響分析のシミュレーションが実施可能となっています。EhPアップグレードをこれから検討されるお客様には、Panayaによる無償アセスメントサービスを提供させていただいています。お客様のシステム情報をアップロードするだけで、分析結果が48時間以内に完了し、EhPアップグレードにおける修正箇所数、想定工数などが確認できます。詳しくは、当社ホームページよりお問い合わせをお願い申し上げます。

以上