コラム

誰でもわかるシリーズ(第1回)
改正電子帳簿保存法(データ保存要件の緩和、
スキャナ保存要件の緩和、
電子取引データの紙保存廃止)

1998年(平成10年)に施行された電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律として現在に至るまで幾度となく改正されてきました。特に、2021年(令和3年)の税制改正では、これまでとは異なる大幅な改正が行われています。当コラムでは、2022年(令和4年)1月より施行された改正電子帳簿保存法の要旨について解説します。

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法とは、国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイトから引用すると、「電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律で、同法に基づく各種制度を利用することで、経理のデジタル化が図れます」とあります。

ここで言う税務関係帳簿書類とは国税関係帳簿と国税関係書類のことを言い、具体的には以下の文書(表1)のことを指します。

<表1 国税庁 タックスアンサーNo.5930による分類>

国税関係帳簿 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など
国税関係書類 棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書など

法人は、そもそもこれらの国税関係帳簿を備え付けて会計取引を記録するとともに、その会計取引に関して作成または受領した国税関係書類を、当該事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。

電子帳簿保存法の施行以前は、これら国税関係帳簿書類を7年間も「紙で」保存することを義務付けてきました。しかし90年代後半からPCやインターネットの普及により業務のペーパーレス化が進む中、税務申告だけが依然として紙保存を納税者に強制していることへの批判から、国税関係帳簿書類を紙で保存する代わりに、「データで」保存することを認める法律である「電子帳簿保存法」を施行することとなります。

電子帳簿保存法の正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」であり、この法律により国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する規定と、電子取引に係る保存義務の規定が定められています。

国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する規定とは、会計帳簿や取引証憑、スキャンしたデータなどの電子保存に関する規定を指し、電子取引に係る保存義務の規定とは、EDIなどの電子取引で発生する注文書や領収書などの電子データの保存についての規定を指します。

改正の経緯

電子帳簿保存法は1998年(平成10年)に施行された法律で、申告納税制度の真正性を担保しながら国税関係帳簿書類の保存に関する納税者の負担軽減を推進する目的で、現在に至るまでに幾度も改正されてきました。

<表2 電子帳簿保存法 主な改正の経緯>

1998年
(平成10年)
電子帳簿保存法が施行
2005年
(平成17年)
請求書、領収書などのスキャナ保存が一部認められる
2015年
(平成27年)
スキャナ保存制度を対象とした規制緩和(スマホ入力がOKに)
2019年
(令和元年)
申請手続きの簡素化、スキャナ保存の運用緩和
2021年
(令和3年)
大幅な税制改正
2022年
(令和4年)
手続きの簡素化(電子取引データ保存に関する宥恕措置)

2021年(令和3年)の改正では、今までにない大幅な要件緩和が実現されています。改正のポイントは大別すれば、次の3つに集約されます。

(1)データ保存要件の緩和
(2)スキャナ保存要件の緩和
(3)電子取引データの紙保存廃止

次にこれら3つの改正ポイントについて、解説していきたいと思います。

データ保存要件の緩和

そもそも電子帳簿保存法では、紙で保存する義務がある国税関係帳簿書類を一定の要件を満たせば、紙に代わって電子データで保存することを認める法律です。しかし改正以前においては様々な制約があり適用するには手間とコストがかかったため、企業にとって帳簿書類をわざわざ電子データで保存するメリットが見いだせない状況でした。

そのような状況が続いていた電子帳簿保存法ですが、2021年(令和3年)に施行された「デジタル社会形成基本法」に合わせる形で、行政サービスのデジタル化や納税者のDX推進の一環として、データ保存に関する要件も大幅に緩和されることになりました。

具体的には、税務署長による事前承認制度の廃止や、今回の改正で新たに区分された「その他電子帳簿」においては改正以前まで必要であった保存要件を満たさなくてもマニュアルなどの書類を備え、データを速やかに出力できさえすれば、電子データ保存が可能となります。

その一方で、改正以前の保存要件を満たしていて事前に所轄税務署長に届出書を提出している場合は「優良電子帳簿」として取り扱われ、過少申告加算税(5%)の軽減措置や所得税の青色申告特別控除(65万円)の適用を受けることができるようになります。

<表3 電子帳簿保存要件の概要>

保存要件概要 優良 その他
記録事項の訂正・削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認できる電子計算機処理システムを使用すること
通常の業務処理期間を経過した後に入力を行った場合には、その事実を確認できる電子計算機処理システムを使用すること
電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること
システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと
検索要件 ①取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること
改正後、記録項目は取引年月日、取引金額、取引先に限定
②日付又は金額の範囲指定により検索できること
③二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしていること

引用元:国税庁 電子帳簿保存法改正に関するパンフレットより一部編集

表3の<電子帳簿保存要件の概要>にある通り、今回の改正で新たに区分された「その他電子帳簿」は、優良電子帳簿に比べ電子帳簿として認められる要件のハードルが下げられていますが、前提として優良電子帳簿と同様、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録し、かつ自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成する必要があります。

スキャナ保存要件の緩和

スキャナ保存とは、取引相手から受領した紙の請求書や領収書、また自社から取引相手に交付した紙の請求書や領収書の控えなど、いわゆる取引書類についてスキャナ(スマホやデジカメも含む)で読み取った電子データを紙の現物に代えて保存することができる制度です。

スキャナ保存の対象は、電子帳簿保存法施行規則第2条第4項に規定する書類以外の国税関係書類となります。具体的には棚卸表、貸借対照表及び損益計算書などの計算、整理又は決算関係書類以外の国税関係書類がスキャナ保存の対象となります。

<表4 スキャナ保存の対象及び、取引書類の具体例>

スキャナ保存 帳簿/書類 の性格 帳簿/書類 の名称
対象外 帳簿 仕訳帳
総勘定元帳
一定の取引に関して作成されたその他の帳簿
計算、整理又は
決算関係書類
棚卸表
貸借対照表・損益計算書
計算、整理又は決算に関して作成されたその他の書類
対象 重要書類 一連の取引過程における開始時点と終了時点の取引内容を明らかにする書類で、取引の中間過程で作成される書類の真実性を補完する書類 契約書、領収書など
一連の取引の中間過程で作成される書類で、所得金額の計算と直結・連動する書類 預り証、借用証書、預金通帳、小切手、約束手形、
有価証券受渡計算書、社債申込書、
契約の申込書(定型的約款無し)、
請求書、納品書、送り状、輸出証明書など
一般書類 資金の流れや物の流れに直結・連動しない書類 検収書、入庫報告書、貨物受領証、
見積書、注文書、契約の申込書(定型的約款有り)など

引用元:国税庁 電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】問2、問10より一部編集

今回の改正では、2022年(令和4年)1月1日以後の取引書類のスキャナ保存にあたって税務署長による事前承認制度が廃止されました。また、内部統制に関する適正事務処理要件が廃止されたため定期検査がなくなることから、スキャナ保存後の紙の証憑原本は廃棄することが可能となります。

スキャナ保存の対象となる取引書類は、<表4 スキャナ保存の対象及び、取引書類の具体例>の通り「重要書類」と「一般書類」に区別されますが、それぞれスキャナ保存ができる要件が異なります。今回の改正では一般書類について保存要件が緩和されていますが、重要書類については依然として厳しい要件が求められています。スキャナ保存の要件については、国税庁のホームページで押さえておきましょう。

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<表5 スキャナ保存の要件>

要件 重要書類 一般書類
①入力期間の制限(書類の受領等後又は業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに入力)
②一定水準以上の解像度(200dpi以上)による読み取り
③カラー画像による読み取り(赤・緑・青それぞれ 256階調(約 1677 万色)以上) ※1
④タイムスタンプの付与 〇※2 〇※3
⑤解像度及び階調情報の保存
⑥大きさ情報の保存 〇※4
⑦ヴァージョン管理(訂正又は削除の事実及び内容の確認等)
⑧入力者等情報の確認
⑨スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持
⑩見読可能装置(14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識等)の備付け ※1
⑪整然・明瞭出力
⑫電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け
⑬検索機能の確保
※1 一般書類の場合、カラー画像ではなくグレースケールでの保存可
※2 入力事項を規則第2条第6項第1号イ又はロに掲げる方法により当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、その確認をもってタイムスタンプの付与に代えることができる
※3 当該国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認することができる場合には、タイムスタンプの付与に代えることができる
※4 受領者等が読み取る場合、A4以下の書類の大きさに関する情報は保存不要

引用元:国税庁 電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】問10より一部編集

また今回の改正では、タイムスタンプの付与要件についても緩和されています。改正以前は認定事業者によるタイムスタンプしか認められていませんでしたが、今回の改正では要件として定められている入力期間内に入力したことを証明できるSaaS型クラウドサービスに、スキャナデータを保存することでタイムスタンプの代わりになるとされています。詳しくは、国税庁 電子帳簿保存法取扱通達解説(趣旨説明)の4-28を参照ください。

改正以前ではスキャナ保存を実施する企業は、タイムスタンプ認定事業者と連携しているJIIMA認証を受けたパッケージソフトを利用することでタイムスタンプの問題をクリアしてきましたが、今回の改正により今後は認定事業者を利用せずに自社システム内に時刻証明機能を実装することでタイムスタンプの問題をクリアできることとなります。

電子取引データの紙保存廃止

電子取引とは、EDI取引やECサイトを通じた取引を指します。また電子メールにより注文書、契約書、送り状、領収書、見積書などを添付して送受信する場合も含みます。具体的には、以下の取引が電子取引として国税庁から例示されています。

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<表6 電子取引に該当する事例>

  • ①電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
  • ②インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等のスクリーンショットを利用
  • ③電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
  • ④クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
  • ⑤特定の取引に係るEDIシステムを利用
  • ⑥ペーパーレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
  • ⑦請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
  • ⑧従業員が会社の経費等を立て替えた場合において、その従業員が支払先から領収書を電子データで受領

引用元:国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問4、問10より一部編集

今回の改正では、2022年(令和4年)1月1日以後の電子取引データの紙保存は認められない予定でしたが、対応が困難との意見が多数寄せられたため、改正前の通り電子データの紙保存を可能とする2年間の宥恕措置(ゆうじょそち)が認められることとなりました。宥恕措置期間は2022年(令和4年)1月1日から2023年(令和5年)12月31日の2年間となっており、その期間中は紙保存が認められることとなります。

しかし電子データ保存の代替としての紙保存は、あくまでも宥恕措置であることから、電子帳簿保存法施行規則第4条第3項に関する附則(令和三年三月三一日財務省令第二五号)の経過措置にある通り、所轄税務署に対してデータ保存ができない「やむを得ない事情」を説明し、かつ紙保存したデータの「書面の提示若しくは提出の要求に応じる」ことができる準備が必要となります。

この宥恕措置期間が終了する2024年(令和6年)1月1日以降は、本来規定されている保存要件と改ざん防止措置を満たす必要があるため、この2年間の宥恕措置期間中にシステムの改修や業務の見直しを行う必要があります。

<電子取引データの保存要件>

  • ①改ざん防止のための措置をとる
    「タイムスタンプ付与」や「履歴が残るシステムでの授受・保存」といった方法以外にも「改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る」でも構いません。改ざん防止のための事務処理規程のサンプルが国税庁のホームページで公開されています
  • ②「日付・金額・取引先」で検索できるようにする
    専用システムを導入していなくても、表計算ソフト等で索引簿を作成する方法や規則的なファイル名を設定する方法でも対応が可能です
  • ③ディスプレイ・プリンタ等を備え付ける

国税庁 電子取引データの保存方法パンフレット(令和3年12月改訂)より一部編集

もし電子保存データに不備が発見された場合は、国税通則法第68条による通常の重加算税(35%)に加え、電子帳簿保存法第8条第5項による重加算税(10%)を加えた合計45%のペナルティーを受けることとなりますので、注意してください。

2023年(令和5年)10月から開始されるインボイス制度では、適格請求書の交付・保存について書面による方法と、電子データによる方法のどちらかを選択することができます。ここで電子データによる方法を選択した場合は電子取引に該当することとなり、電子帳簿保存法に従って電子取引データを保存しなくてはなりません。

免責事項

当コラムの内容は2022年11月時点で筆者の理解のもとに作成していますが、実務運用にあたっては皆様の担当税理士、会計士にご相談の上、最新の関係法令・通達の確認を行うようお願いいたします。万一、当コラムのご利用により何らかの損害が発生した場合は、当社は何ら責任を負うものではございません。